ふたりごと


少し落ち着いたところで、松崎くんは私の様子を伺いながら


「そろそろ行きますか?たぶん、トシたちは歩くの早いからもう会わないと思います」


と話しかけてきた。


あ、敬語に戻ってる。


でも、私は彼がさっき敬語をやめたことも、今敬語に戻ったことも、彼にどうこう言うつもりはなかった。


話し方はその人の自由だ。


「うん。私、このままだとここに座ったまま日が暮れちゃう」


私が苦笑いすると、ずっと固かった彼の表情がフッと和らいだ。


「俺も同じこと思ってました。行きましょう」


良かった。
いつもの松崎くんだ。


この間から、松崎くんは私の知らない顔ばかり見せるなぁと思った。


二人で居酒屋に行った夜もそうだったし、今日もそう。
お酒を飲んで楽しそうな松崎くんも、友達と話す松崎くんも、怒った松崎くんも、彼の一部なのだ。


私は歩きながら松崎くんの後ろ姿を見ていて、ちょっとだけ安心した。


彼は言いたいことを全部内側に秘めて溜め込むタイプなのかと思っていたけれど、そうではなさそうだ。


22歳らしからぬ落ち着いた男の子という印象から、本当の彼を見れた気がしてなんとなく嬉しかったのかもしれない。


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