ふたりごと
休憩を終えてから歩いて40分くらいした頃だろうか。
木々の間から見える町並みがかなり遠くに感じるようになってきていた。
「松崎くん、そろそろ頂上?」
私が尋ねると、彼はうなずいた。
「はい、間もなくです」
「わぁ~嬉しい!お腹も空いてきたし、早くお弁当食べたいね」
テンションが上がって思わず「お弁当」と口走る。
「あ」
手で口をふさいでちらっと松崎くんを見ると、目を丸くしてこっちを見ていた。
「お弁当?」
私ってこんな時にお弁当のことを口走るなんて、本当に抜けている。
隠すつもりだったのに。
松崎くんがお昼ごはんを持ってきていたらどうしようか。
アレコレ考えていると、彼が私のリュックを見やる。
「まさかお弁当作ってきたんですか?」
「あー……、うん。ごめんなさい、勝手に。松崎くんの分も作っちゃったの。でも持ってきてたら全然気にしないで。持って帰って家で食べれるし」
言っててとても恥ずかしくなった。
頼まれてもいないのに、おかしいよね……。
迷惑だったんじゃないかな。
「それなら早く言ってくださいよ。重くて大変だったんじゃないですか?」
私の予想に反して、彼は急いだ様子で私のリュックを持ち上げようとした。
「えっ!?いやいや全然!重くないから!本当に!」
むしろ、そこ?という所に食いついてきたので困惑した。
松崎くんはハッとしたように息を飲むと、やがて顔を手で覆った。
「え、大丈夫?どうしたの?」
何事かと私が彼の顔をのぞき込むと、彼は思いっきり顔を背けて
「ダメです、見ないでください」
と拒否した。
「え?なんで?」
「だって、俺、顔がにやけちゃって」
「え?」
ポカンとして聞き返した私に、松崎くんは顔を覆ったまま言った。
「西山さんの手料理ですよね?嬉しくてちょっとヤバいです」
だからそういう事を普通に言うのはやめてほしい。
こっちだって照れてしまう。
「そ、そうですか……」
と訳のわからない返事が私の口から漏れる。
こんな山の頂上付近でなんて会話をしているのか。
でも心の奥底では喜んでしまった自分がいた。