ふたりごと
会社が休みの日曜日。
多恵に誘われて映画を観てランチをしたあと、彼女と別れてふらっと立ち寄った本屋での出来事。
何か雑誌でも買って帰ろうと、ファッション誌のコーナーで何冊か立ち読みをしていたところ、隣に誰かが来て私に声をかけてきた。
「あの、すみません」
女の子の声。
急いで顔を上げると、見覚えのある子がたっていた。
ボブヘアの、キリッとした目の綺麗な顔立ちの女の子。
この子は確か、松崎くんと同じ山岳部に所属しているエミという子だ。
「あ……」
私がビックリして目を丸くすると、彼女は軽く会釈をして
「今、偶然あなたのこと見つけて……。少しお話できませんか?」
と言った。
この間とはまるで雰囲気が違っていた。
意思の強そうな目はそのままだったけれど、私に対して攻撃的な態度はまったく感じられなかった。
「隣、確かカフェだったよね。そこに行きましょうか」
私がそう答えると、彼女はうなずいた。
日曜日ということもあって、賑わいを見せる店内で私とエミさんはなんとなく重い空気が漂う。
あの登山の時を思い返せば仕方ない空気でもある。
話し始めたのは彼女の方だった。
「私、戸塚エミといいます」
きちんと名乗ってくれたので、私も「西山遥です」と自己紹介した。
「西山さん、この間は本当にすみませんでした」
「えっ?」
まさかあの時のことを謝られるなんて思っていなかった。
「私……山岳部に入ってから昭治の事がずっと好きでした」
彼女は視線を落としうつむいたまま、話を切り出す。
「少し前に昭治をご飯に誘って、その時に告白したんです。でも、あっけなく振られちゃって。好きな人いるからって。そんな事があったあとすぐにあなたと一緒にいるのを見て、なんだか許せなくなっちゃって……」
シュンとしたように肩を落としているエミさんの表情は、悲しいでもなく泣きそうというわけでもなく、切ないという言葉がぴったりな表情だった。