ふたりごと
エミさんは思い切ったように顔を上げると、私をじっと見つめた。
「怒ってますよね」
おそるおそる、私の反応を探るような不安そうな目だった。
慌てて首を振って否定した。
「全然怒ってないよ。むしろ……あなたの言葉で松崎くんが苦しんでるんだって気付かされて、逆に謝りたいくらい」
私の言葉を聞いたエミさんが、一瞬驚いたような顔をしたように見えた。
でも、すぐにその表情が消える。
「……西山さんのこと、昭治から聞いたことがあったんです」
彼女はそう言って、また目を伏せた。
「山岳部のみんなで飲みに行った時、昭治が珍しくすごく酔っ払ったことがあって。その時に好きな人がいるけど、苦しんでるんだって話してて。その姿を見てると苦しいって。なんか、話聞いてたらうらやましくなっちゃったんです」
そうか……そんなことを言ってたんだ。
私はいかに松崎くんの気持ちを見ないようにしていたか、今更ながら痛感していた。
自分が傷つきたくないがために、彼の気持ちから逃げていたから。
そもそも彼はお酒に強いと思っていたけれど、その時は相当飲んでしまったのだろうか。
ますます申し訳なく感じた。
「この間、西山さんに怒りをぶつけて、山にいる間ずーっとイライラしてたんです。でも家に帰ってから冷静になって、なんてこと言ったんだろうって思ってしまって……」
そんなに気にしてしまっていたなんて、この子はちゃんと人の気持ちを考えられる子なんだなぁ、と感心した。
私が同じ立場だったらそこまで気にすることが出来るか分からない。
「気を使わせてしまってごめんね」
思わずそんなことを口にすると、なぜかエミさんは笑った。
「あーあ、やっぱりそうかぁ」
と、ため息をついている。
話が見えなくて戸惑う私に、彼女は苦笑しながら頭をかいた。
「昭治にあの時のこと西山さんに謝りたいって言ったら、きっと西山さんは逆に謝ってくると思う、って言われたんです。あの人はそういう人だから、って」
「そ、そんなこと言ってたんだ」
松崎くんには私の反応が手に取るように分かるということ?
そんなに分かりやすいのかと恥ずかしくなった。
いや、そうじゃない。
きっと、それだけ私のことを理解してくれているのだ。