ふたりごと
エミさんはこのあと、ぐいっと一気に紅茶を飲み干すと
「昭治を幸せにしてあげてください!」
と言い捨て、私の返事も待たずに席を立った。
取り残された私は、彼女の「幸せにしてあげてください」という言葉で、先日読んだばかりの和仁の手紙を思い出した。
『誰か違う人に幸せしてもらってほしい』
確かにそう書いてあった。
でも、こんな私でも幸せにしてあげることができるのかな。
『西山さんと一緒にいられるだけで楽しいし、幸せです』
松崎くんはこう言ってくれていた。
好きな人に幸せにしてもらうだけじゃなく、幸せにしてあげなくちゃいけない。
こんな大切なことが今、わかった。
和仁が私を選ばなかった理由はこれだと思った。
私は幸せしてもらうことばかり望んで、逆に幸せしてあげることは考えていなかった。
お互いに幸せだと感じていなければ、それは『幸せ』とは言えないのだ。
このタイミングで気づくことが出来てよかった。
「ありがとう」
風のように去っていった、からっぽになった向かいの席にお礼をつぶやいた。