ふたりごと
私は会社に連絡し、体調が悪くなり電車に乗れなかったことを伝えた。
無理はせずに今日は休んでいいと言われ、内心ホッとしている自分がいた。
仕事をしないと和仁のことを考えてしまうけれど、今は頭痛が酷すぎてそんな余裕はない。
私はペットボトルの水を飲みながら、隣に座る大学生らしき男の子を見やった。
彼は何をするわけでもなく、ただそこに座ってどこかを見ている。
悪いことをしたな。
彼にも都合があっただろうに、私に気を遣ってそばにいてくれているに違いない。
「名前と連絡先、教えて下さい」
思い切って私が声をかけると、彼は不意をつかれたように勢いよく私の方を見た。
「え?」
「変な意味で聞いてるんじゃないの。お礼がしたいんです。もう少し体調が良くなってからになるけど…」
慌てて私は首を振る。
もちろんおかしな意図はないが、人によってはナンパみたいにとらえてしまうかもしれない。
そんな風に思われては困るので遠回しに否定した。