ふたりごと
松崎くんは喜怒哀楽がなんとなく曖昧な人だった。
だから時折見せる優しい笑顔は、彼の魅力だろう。
だけど心が動くわけではない。
いいな、と思っても、やっぱりどこかで和仁のことが引っかかる。
すべてを和仁と比べてしまうのだ。
忘れられていない証拠だ。
カフェを出て、松崎くんと別れるときに彼に呼び止められた。
「西山さん」
「はい」
「今日、楽しかったですか?」
彼の唐突な質問は、とても答えづらかった。
なんと言っていいのか思いつかなくて目を泳がせていると、先に彼の方が口を開いた。
「また俺と会っていただけませんか」
松崎くんは、まっすぐに私の目を見ていた。
その目には嘘がなかった。
確信した。
彼はたぶん、私に好意を持ってくれているのだ。