ふたりごと


「はい」


『西山さんですか?』


「そうです」


電話の向こうは、ちょっとざわざわしていて賑やかだった。


松崎くんは外にでもいるのだろうか。


『今日は仕事、お休みですか?』


彼の言葉を聞きながら、私は窓を開けて空を見上げた。


雲ひとつない真っ青な空。


空を見上げたまま、私は返事を返した。


「お休みです」


そういえば、彼と会ったのはいつだっけ?


視線を部屋の中に戻し、壁掛けのカレンダーを辿る。


最後に会ったのは、約二週間前だった。


『なにか映画でも観に行きませんか』


前に誘われた時も感じていたことだったが、彼の誘い方はじつにスマートだと思う。


無駄な前置きもなく、言いたいことをすんなり言う。


緊張や警戒心が自然に解けるような気がした。


「…行きます」


それは私の口から自然に出た返答だった。


もしかしたら私は、松崎くんのペースにすでに巻き込まれているのかもしれない。


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