ふたりごと
「好きな人のすべてを知りたいとは思わないってこと?」
私が尋ねると、彼は曖昧にうなずいて神妙な表情で答えた。
「だって好きな人の好きな人は、自分には関係ないですよね。たしかにどんな人が好きなのかくらいは気になりますけど、直接的には自分に関わってくるわけではないし…」
そういう考え方もありなのか。
好きな人に会うことはあっても、好きな人の好きな人に直接会う機会がなければ、気にしていたってキリがない。
あの映画の主人公みたいに、彼の好きな人のことを知る勇気は、私にはなかった。
「西山さんは?気になりますか?好きな人の、好きな人」
松崎くんの核心を突くような質問に、私はなかなか答えを導き出せなかった。
しばらく黙って、私は目の前にある彼の顔を見つめた。
彼はまったく逸らすことなく、私の目を見ていた。