ふたりごと
小さめの白いシンプルなコーヒーメーカーを購入した松崎くんは、百貨店を出たところで私に声をかけてきた。
「ひとつ提案があるんですけど」
「なに?」
私が首をかしげると、彼はいつものような淡々とした話し方で
「俺がおいしいコーヒーをいれられるようになったら、うちに来ていただけませんか」
と言った。
━━━まさか、私を試してる?
少しの間、答えを探す。
いや、彼はたぶん試しているのではない。
精一杯の彼の気持ちを、私に伝えようとしてくれているのではないだろうか。
私はしばらく彼を見ていたけれど、小さくうなずいて見せた。
すると、松崎くんはホッとしたように胸を撫で下ろしていた。
「断られなくてよかった」
その彼の安堵した表情を見ていたら、私の中で罪悪感が生まれた。