ふたりごと
「いいの。後悔なんかしない。気にしないで」
私は早口でそう言い、携帯をバッグにしまうと彼の腕を引いた。
「おいしいものでも食べに行きましょう」
「でも……、………はい」
松崎くんはまだ言い足りなかったようだったけれど、口をつぐんで私についてくる。
━━━ちょっと強引に話をやめてしまった。
逃げたことと同じになるのだろうか。
私と松崎くんが歩き出した時、後ろで男の人の声がした。
「遥!」
ビクッと体が勝手に震えるのが分かった。
だって私の名前を呼んだその声は、忘れる日などなかったあの人の声だったのだ。