ふたりごと
逃げたい、
逃げたい、
逃げたい。
今すぐにこの場から走り去って、部屋のベッドに潜り込んで声を上げて泣きたい。
でも、そんな勇気すら私にはなかった。
今は、今だけは笑わなくちゃ。
「ずっと気になってたんだ。元気そうでよかったよ」
別れてからも和仁は私のことを気にしてくれたらしい。
あんな別れ方だったし、気にしない方が難しいかもしれない。
私はなるべく明るく振る舞うようにつとめた。
「元気だよ。私は大丈夫」
「そうか。…もしかして、彼氏できたの?」
和仁は私の隣にいる松崎くんを見て、首をかしげた。
すると、私が答えるより先に、ずっと黙っていた松崎くんが口を開いた。
「西山さん」
何を言い出すのかと思いきや、彼は私の名前を呼んで視線を送ってきた。