ふたりごと


「どうしたの?」


と、聞き返すと、松崎くんは眉を寄せて珍しく不機嫌そうな態度をあらわにした。


「もう行きませんか」


「えっ…、あ、うん…」


いつもより少し強い彼の口調に驚いてしまって、思わずうなずいた。


「ごめん、遥。せっかくデートしてたのに声かけちゃって」


和仁が申し訳なさそうに謝るのが聞こえて、私は首を振った。


「ごめん。…ほんとにごめんな」


ごめん、と繰り返す和仁の言葉は、何に対しての謝罪なのだろうか。


私と松崎くんに謝っているのか、


他に好きな人ができたから、と突然別れを切り出したことを謝っているのか、


それは和仁にしか分からないことだ。


思い違いかもしれないけれど、私には


「あんな風に別れを告げてしまって、ごめん」


と、そう聞こえた気がした。


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