ふたりごと


━━━その日、いつもは駅で別れるのだけれど、今日はなぜか松崎くんが


「家までとは言いませんが、迷惑じゃなければ近くまで送らせてください」


と言い出してきた。


断る理由もなくて、私はその申し出を受け入れて途中まで一緒に帰ることにした。


聞けば、彼の住むアパートは私のアパートから駅ひとつ分ほどの距離があるだけで、そんなに遠くはないようだった。


「大学は楽しい?」


駅からアパートまでの道を歩きながら、私は唐突に松崎くんに尋ねてみた。


「まぁ、普通です。もう4年ですし、あまり大学に行かなくなりました」


「そうだよね。4年生だと就職活動がメインだもんね。就職は決まったの?」


「はい。中小企業ですけど一応希望してた会社に内定はもらってます」


さすが、と私は感心した。


松崎くんは話を大袈裟にしたり誇張したりしないけれど、このご時世に早々に内定をもらうことは容易ではないはずだ。


努力した結果に違いない。


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