ふたりごと
そこまで考えていたら、自分の気持ちが暗くなってしまっていると感じてやめた。
窓の外を見ていたら、こちらに向かってくる松崎くんを見つけた。
向こうの横断歩道が赤で足止めを食らい、少しキョロキョロしていた。
腕時計を見て待ち合わせの時間よりも早いことに気づく。
どうして?
私が首をかしげていると、やがて青信号に変わり彼はまた歩き始めた。
それもとても急いだ様子で。
すると、松崎くんは携帯電話を耳にあてて、誰かに電話をしているような仕草をした。
少し間を置いて、テーブルに置いていた私の携帯電話が震える。
ディスプレイには松崎くんの名前。
あ、なんだ…
あの電話は私あてだったのか…
「はい、もしもし」
私が電話に出ると、松崎くんはとても焦ったように
『遅くなってすみません!今着きますので』
と早口に言っていた。
「え?」
待ち合わせの時間までまだ全然余裕なのに、どうしてだろう?
『20時でしたよね、待ち合わせ』
「21時だよ」
『えっ?あれ?』
そうか、待ち合わせの時間を一時間勘違いしていたのか。
ようやく理解した私は慌てふためいている松崎くんがおかしくて、笑いをこらえるのに必死だった。
「すぐそばのスタバにいたよ。窓際」
私がそう言うと、彼はふと上を見上げる。
窓際にいる私に気づいたのか、松崎くんは軽く会釈した。
『今行きますね』
彼はすぐにまた足早に歩き出し、電話を切った。