年下の悪魔

言えない。

とてもじゃないけど、言えない。

言えるわけない。


「もし辛かったら言ってね。早退してもいいし」

やだ、それだけは絶対やだ。

「大丈夫ですよ!全然余裕ですから!」

何かしてないと思い出してしまう。

昨日の事、まだ鮮明に覚えてる。

でも…、涼君との思い出だらけのこの店にいるのも辛い。




5年前、私が涼君をフッた理由。

何かあるたびにこうして楽しかった事を思い出してしまうから、だから職場ラブは嫌。

だから涼君をフッたんだ。

別に涼君と付き合ってたわけじゃないのに

何でこんなに辛いの?


「ほら、やっぱり顔色悪いよ!今日はもう帰った方がいいよ!」

「本当に大丈夫ですから!」

「でも仕事中倒れられたら…」

「出勤のタイムカード押して10分も経ってませんよ!」

「タイムカードとか時間とか、んなこたぁどうでもよくて…」

何言ってるんだろ、私。


ここにいたって、家に帰ったって、思い出すのは涼君の事だけなのに。

どっちにしろ辛いのに。




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