火の雨が降った後
翌日、親戚や近所の人に召集令状が届いたことを連絡し、千人針を頼んだ。


近所や親戚だけじゃ足りず、白い布を手に横浜公園に行くと、私と同じように身内の無事を願って千人針を通り過ぎる女性にお願いする人たちがたくさんいる。


「寒い中ご苦労様です。ご無事をお祈りします」


そう言って見ず知らずの人が1針ずつ縫ってくれることに、すごく温かみを感じた。


こんな暗い時代だけど、人との繋がりは深くなってるんだな…。


青い空を流れて行く雲を見上げ、口元が緩んでいく。


私は寅年生まれだったので、年の数だけ縫うことができた。寅は、千里を行き千里を帰る、と言う縁担ぎがあるらしい。


だから、他の人からもたくさんお願いされ気持ちを込めて1針1針縫っていった。

「5銭と10銭も縫いつけたら?」


毎日横浜公園で顔を合わせるうちに仲良くなった、貴恵ちゃんと言う子が言った。


「5銭は死線を越える、10銭は苦線を越えるって意味なんだよ」


意味が分からなかった私に、優しく笑い教えてくれた。
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