火の雨が降った後
半分以上形の出来上がった千人針を見つめた。


こんなにたくさんの人が、気持ちを込めて縫ってくれた。


そんな心が穏やかになる気持ちと、もう1つ。


これが出来上がったら郡ちゃんは徴兵へ行ってしまうんだ…。


不安で仕方なかった。


頭では理解している。郡ちゃんは国を守るために行くんだって。


…だけど、心がついていけない。


郡ちゃんがいなくなると考えるだけで、苦しくなる。


本当に帰ってくるの?


そんなことよりも、本当に行ってしまうの?そう感じる気持ちが強い。


召集令状が届いてからも同じように過ごす毎日。


一緒にご飯を食べて、笑い合って、郡ちゃんの匂いに包まれて眠る。


当たり前すぎて、離れて行ってしまう実感がわかない…。


だけど、考えると胸が締め付けられて、苦しくて、勝手に涙が込み上げてくる。


泣いた顔なんか郡ちゃんに見せたくない。残り少ない日、ずっと笑って過ごすんだ。


そう決めたのに、郡ちゃんがいない所では弱さに負けて泣いていることもあった。
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