火の雨が降った後
戦争は必ず終わる…か。


私には今が戦時下だという実感すらまだない。


食べ物は前に比べたら質素になったが、まだまだお腹いっぱい食べられる。


赤紙を受け取ったけれど、今こうして郡ちゃんは私の目の前で笑いかけてくれる。


そう、私にとって今は本当にごく平凡な日常。


こんな平凡な日常が奪われていくなんて、想像がつかなかった。


郡ちゃんがあと数日でいなくなることすら、実感がわかないでいた。


「郡ちゃん」


あぐらをかいた膝の上に置いていた郡ちゃんの右手を、そっと両手で包む。


骨が太くゴツゴツした大きな手。


本当に郡ちゃんと離れる日が来るのかな…。


大好きな手を見つめながらそんなことを考えていたら、私の手に、郡ちゃんの左手が重なった。


ふと顔を上げると、郡ちゃんの瞳が赤く揺れていた。


「…郡…ちゃん…」


「ごめ…」


最後まで言葉にならないほど小さな声で呟き、俯きながら包んだ手を額に当てる郡ちゃん。


胸の奥が締め付けられて、苦しくなる…。
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