火の雨が降った後
「火だ!家に燃え移るぞ!」


外から男の人の叫び声が聞こえてくる。


その声に、ギュッとつむっていた目が開き、顔を上げた。


火…?


とっさに防空壕を飛び出すと、縁側の軒が燃えている。


!?


慌ててそこら辺にあったほうきを手に取り、力の限り叩いた。


油の臭いが鼻を刺激する。煙が目に入って涙が出てくる。
火の熱さで汗が額から流れ落ちる。


だけど、そんなことを気にして手を止めている時間なんてなかった。


軒の火を叩いている最中にも、背後にブスッと何かが突き刺ささる音が何度もした。


振り返って確認しなくてもその音が何なのか分かる。


焼夷弾だ。


衝突した弾みに油に引火し火が広がると、誰かが言っていた。


それを聞いた時は、川崎や東京方面の暗い空を眺めていた時で、暗い夜の空にオレンジ色や青色の塊が降り注ぎ、それを綺麗だと見とれた自分がいた。


「こんちくしょー!!」


何が綺麗だ!何が花火みたいだ!


全然違う。綺麗なんて言えない。そんなことを感じた罰なんだ。


この焼夷弾め!!消えろ!消えろ!!


ワケわからない腹立ちで私は涙を流しながら必死に、次々広がる火を叩きつけていた。
< 19 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop