火の雨が降った後
いつもと同じ朝だった。


通勤通学で家の前を通り過ぎる近所の人たち。


隣の家から聞こえてくる、三味線の音。


真っ青な青空が広がり、ほうきで軒先を掃くだけで汗ばむほどの暑さだった。


眩しい太陽の光りに手をかざすと、大きなあくびが出た。


「おはよ、軍事郵便だよ」


いつも軍事郵便を届けてくれる、白髪まじりのおじさんが笑いながら私に1枚の葉書を差し出す。


慌てて口に手を当てて、はにかんだ笑顔を見せた。


「ご苦労様です!」


弾んだ声で受け取り、玄関掃除を後回しにし部屋の中に入った。


ちゃぶ台の前に正座し、手に包み込んだ葉書を眺める。


『八重子

元気にしていますか。明るさが取り柄の君だから元気でいてくれているでしょう。

こちらの空は、横浜に比べ澄んでいてだいぶ低く感じます。

この空を眺めていると、八重子の笑い声が聞こえてきそうな気がします。

必ず生きて帰るから。だから、笑顔で僕を迎えて下さい。

郡司』


手紙をギュッと胸に包み込み、口元を緩ませた。


戦地から手紙が届いたと言うことは、無事でいてくれてる。


届くたびに、泣きそうなほど安心する瞬間だった。
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