火の雨が降った後
混乱しているはずなのに、なぜか冷静に判断できる自分に驚いた。


幸い玄関はまだ火が回っておらず、濡れた防災頭巾をかぶって路地に飛び出そうとした足が止まる。


何…これ…


狭い路地は人で溢れ返っていた。


リヤカーいっぱいの荷物を運んでいる人、赤ちゃんを抱っこしながら両手に子どもと手をつなぐ人、顔や体に火傷を負った人。


見たことない顔もたくさんいるから、きっとどこかから避難してきたのだろう。


皆切羽詰まった顔をしている。黒いすすに汚れ汗をかきながら、何かを必死に追い求めているような表情…。


その気迫に恐怖を感じ、止まっていた足が後ろに1歩動き尻餅をついた。


その時目に映ったのは、いつの間にか黒くなった空だった。


朝…だよね…?


そう思いながら目が離せなくなっていると、空からオ次々に降ってくるオレンジ色の光。


それはすごく優しい色をしていて、呆然と見とれてしまうほどだった。


火の雨が降ってる…


周りの音も聞こえないくらいに見入る私の意識を戻したのは、目の前の路地に火の雨の粒が落ちた時。


「ぎゃー!!」


叫ぶ声と共にのた打ち回る人。


周りの人はそれを避けるように歩くだけで、足を止めない。


「助けて!!助けて!!」


そう叫ぶ声が聞こえるのに、足がすくんで動かない。
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