火の雨が降った後
廊下は寒く、吐く息が白い。


身を縮め手をこする私とは対照的に、郡ちゃんは背筋をピシッと伸ばし軽く深呼吸をした後、玄関の戸を開けた。


あ、雪が降ってる。


郡ちゃんの背中の向こうには、暗い景色の中に真っ白な雪が舞い落ちて来ているのが見えた。


思わず、雪が降った喜びを口に出そうとした時玄関先からの声で固まった。


「召集令状をもってまいりました。おめでとうございます」


召集…令状…。


「…寒い中ご苦労様です。…八重子、これで肩身の狭い思いしないで済むな」


そう言いながら振り向いた郡ちゃんの顔は、とても柔らかく優しい笑顔を浮かべていた。


召…集…令状…


頭の中は、外に降る雪のように真っ白になっていく。


まばたきもできずに、ただ固まるだけの私の肩を優しく抱え


「寒いから部屋の中へ行こう」


と、郡ちゃんが部屋に連れて行ってくれた。


ちゃぶ台の上に置かれた1枚の赤い紙。


これは本物…?


え、これって夢じゃなくて!?


何度もまばたきをして、内容を確かめる。
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