火の雨が降った後
そんな私の頭に郡ちゃんの大きな手が乗る。


「大丈夫だから。…俺が召集されなかったらもっと肩身の狭い思いさせてたよ…」


そんな時代だった…。召集されてこそ、1人前の男。徴兵検査でランクの低い判定をもらうと、肩身の狭い思いをし、外にも出歩けないような時代。


郡ちゃんは、近眼だった。だから召集されない可能性があると、心の中で安心している部分があった。


郡ちゃんの同級生は大半が徴兵に行き、周りに


「郡司はお国のためにならないのかぁ」


なんてバカにされていたことも知ってる。


でも郡ちゃんは教師をしている。立派に将来ある子供たちを導く立場にいた。


それのどこが国のためになっていないんだと、私はよく言い返していた。


何で郡ちゃんが…。


それだけしか頭に浮かばない。


郡ちゃんの優しくなでる手が、もうすぐで離れてしまうなんて…。


「必ず生きて帰ってくるよ」


そう優しい声で言う郡ちゃんを睨みつけた。


「生きて帰れる保証なんてどこにあるの!?」


郡ちゃんの黒い目が揺れる。


「生きて帰るよ。俺はそう思ってるから」


目を細め笑う余裕さに、イライラが増していく。
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