RUN&GUN
「懐にも袂にも、何もありませんでした。おそらく間諜でしょう」

「実戦要員は別にいるってことか。辰巳にやられたのとは、別口かしら」

「あの血溜まりは、辰巳の血じゃないってことですか」

店先に広がっていた血溜まりを思い出し、与一は言った。
他の奴に辰巳がやられてしまったら厄介だ。

「違うわよぅ。ま、辰巳も少しは怪我したかもしれないけど。やられたのは、何か柄の悪そうなおっさんだったわ。辰巳に何か詰め寄ってた。御珠を狙う輩にしては、頭の悪いやりかたよね」

与一は先程藍に取られたエンフィールドを再び懐に突っ込むと、素早く立ち上がった。

「与力がいたってことは、やられた奴はしょっ引かれたってことですよね。そいつを追います」

「あぁん。よいっちゃんと寝ようと思ってたのにぃ」

藍が不満げに唇を尖らせながらも、素早く着物に袖を通す。
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