RUN&GUN
向かい側の人混みに視線を戻すと、すでに例の男の姿はない。

「辰巳を調べるにあたって、邪魔になるようなら消すけど。今の段階じゃ、放っておくほうがいいわ」

「そうですね」

身にまとわりつく視線を振り切り、与一は人混みから離れて歩き出した。
相変わらず、藍の手を引いている。

しばらくぶらぶらと川沿いを歩いて、西の市のほうへ向かう。
途中で、藍が目ざとく屋台を見つけて、与一の手を引っ張った。

「お稲荷さんっ。よいっちゃん、晩ご飯っ」

「稲荷寿司の屋台とは、限らないでしょう」

「お稲荷さんだもんっ。お稲荷さんの匂いがするもんっ」

稲荷に匂いなんて、あったかなぁと思いながら、ぐいぐいと引っ張られるまま、藍に引き摺られるように、与一も屋台に向かう。

「おじさん。二皿頂戴。あ、よいっちゃんは、もう一皿いる?」

「稲荷ばっかり、そんなに食えませんよ。親父、つまみと冷酒も」

店先に座り、出された酒を受け取った藍が、お猪口に注ぐ。
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