RUN&GUN
「いやいや。ありゃあ、酔っちゃいなかったぜ。実はよ、俺っちは結構、絡まれることが多いんだよ」

案の定、辰巳のほうから話し出した。
こういう話は、結構人の興味を引く。
同時に己の腕自慢もできるというわけだ。

「あんたぁ、そんな絡まれるようなお人なんかい」

相手の調子に合わせて、与一が眉を顰めてみせる。
辰巳は与一が引いたと見て、慌てたように手を顔の前で振った。

「そんなんじゃねぇよ。俺っちは、真っ当な人間だぜ。ただよ、師の下で育った奴からしたら、ぽっと出の俺なんざ、面白くねぇだろうさ」

「ぽっと出? お前さん、下駄屋の辰巳だろ。下駄を作らせたら、右に出る者はいねぇっつう、あの辰巳さんだろうがよ」

ちょっと意外な辰巳の言葉に、与一は興味を示す。
辰巳に言いながら、与一は辰巳が寺の稚児だったと三郎太が言っていたことを思い出していた。
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