RUN&GUN
与一は懐の中の左手で傷を押さえたまま、右手だけを出して見本の鼻緒を指した。

「これにするよ」

辰巳はちらりと鼻緒を見、すぐに視線を戻して、しばらく与一を見た。

「・・・・・・こっちへきなよ」

辰巳が立ち上がり、店の奥の部屋へと与一を促す。

店の奥---調べる価値のある部屋だ。
が、与一は顔を引き攣らせた。

何せ件(くだん)の部屋は、以前主人と陰間が出てきた部屋だ。
店の奥に入るということは、すなわち誘われているのではないか。

---裏は出会い茶屋って噂だぜ---

再び三郎太の言葉を思い出す。
上がり口で固まる与一に、辰巳が振り返った。

「どうしたい? 鼻緒の在庫は、奥にあるんだ。合う長さのやつを選ばないと。それに、あんた顔色悪いぜ。奥のほうが、他の客に気兼ねなく休めるだろ」

「・・・・・・」

顔色が悪いのは、怪我のせいもあるが、辰巳に誘われていることにもよる。
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