RUN&GUN
「おい三郎太。お前もすでに、奥に引っ張られてるんじゃねぇのか」

にこにこと言う奉公人に聞こえないよう、三郎太の袖を引っ張って、与一は耳打ちした。
三郎太は、とんでもない、というように、慌てて首を振る。

「違うって。俺は上客だぜ。注文も、いっぺんに沢山頼むから、奥で話をしたりするんだ。それとか、今日みたいに手土産を持ってきたりするし」

そんなやりとりをしていると、廊下の向こうに辰巳が現れた。

「ああ、兄さん。昨日は世話になったな」

与一に声をかけた辰巳は、傍目には特に何も変わらない。
ま、あれぐらいなら、布巻いておけばいい話だしな、と与一は軽く手を挙げた。
現に与一だって、他の二人から見たら、縫うほどの怪我を負っているとは思わないだろう。

「辰巳さん、忙しいところに来ちまったみたいだね」

三郎太が、横に置いた包みをぽんと叩いて言った。

「千秋屋さんか。ちらりと聞こえたんだが、千秋屋さんはこっちの兄さんとも顔なじみなんだって? だったら、三人同席でも構わないか?」

辰巳が廊下の奥を指しながら言う。
先程聞いたとおり、三郎太ほどの上客は、奥に通して接客するのだろう。
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