RUN&GUN
「構わんよ。今日は、夏みかんを持ってきたんだ」

包みを奉公人に渡し、店に上がりながら、三郎太が与一のほうを振り向いた。

「お前を一人で奥に行かしたら、危険だしな」

先を行く辰巳や奉公人に聞こえないよう、三郎太は、そっと与一に耳打ちした。

一方、与一は複雑だ。
確かに‘そっち方面’で何かあったときのために、三郎太がいてくれるのは有り難いが、違う方面---昨日のように、御珠狙いの輩(やから)に襲われたときは、関係ない人間のいることは有り難くない。

まして自分をよく知る人間だ。
三郎太の前で、派手な立ち回りは演じたくない。

それに、昨日の奴のように、さほど腕が立つわけでもなさそうな上、あっさり引いてくれればいいが、今度はもっと腕の立つ者がやってくるかもしれない。
そのような相手とやりあうのに、周りの目を気にして応戦すれば、それこそ命取りだ。

---仕方ねぇな。そのときは、そのときだ---

腹を決め、与一も店に上がり、三郎太の後を追った。
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