RUN&GUN
その頃藍は、下駄屋から少し離れた路地裏から、肩に乗せた鴉のから公と一緒に、下駄屋の様子を窺っていた。

「今日は珍しく、人が少ないわねぇ。こんなんじゃ、店に行ったら目立っちゃう」

ぶつぶつと言いながら、藍は下駄屋の裏にある松の木に目をやった。

「ということで、から公。あの松の木を、ちょっと探ってきてくれる? ついでに、よいっちゃんの様子もね」

くぁ、と鳴くと、から公は藍の肩を蹴って、勢い良く松の木に突っ込んでいった。
しばらくして、松の木からから公が小さい頭を出し、再びくぁ、と鳴いたのを見た藍は、さっと辺りを見渡し、一気に下駄屋の裏の築地塀の前まで走ると、そのまま立ち止まることなく、ひらりと築地塀を跳び越えた。
まるで猫のようにしなやかな動きである。

素早く庭の植え込みの中に飛び込んだ藍は、しばらく息を潜めてから、そっと下駄屋の屋敷部分を窺った。
から公が、堂々と閉まった障子のすぐ前を、行ったり来たりしている。

そのから公が、不意に空高く舞い上がった。
同時に何かが暴れる音と、小さな鈴の音が、部屋の中から聞こえた。

何かいる、と察した藍は、入ったときと同じように、ひらりと身を翻すと、あっという間に築地塀を跳び越えて、姿を消した。
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