RUN&GUN
「そりゃ、よいっちゃんのために、腕によりをかけて作ってるんだもの」

肉屋の親父が、にやにやと与一を見て意味ありげに笑っている。

「兄さん。こっちゃ、ご新造さんかい。随分若いのに、いい嫁さんだねぇ」

何と返したらいいものか。
肉屋の親父の言葉に、与一は無表情のまま考え込んでしまった。
わざわざ否定するのも、その後がまた長くなりそうで面倒だ。

「うふ。ありがとう」

軽くあしらって、藍が風呂敷包みを下げて、与一の袖を引っ張った。
肉屋の親父も、にこにことしているだけで、それ以上のことは言ってこない。

藍が素顔を曝していれば、何だかんだと話しかけてきただろうが、今は素顔は笠の奥に隠れている。

---藍さんの素顔の威力ってのは、大したもんなんだな---

妙なところに感心しながら、与一は藍に手を引かれて、食い物街を後にした。
< 221 / 407 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop