RUN&GUN
藍の剣幕に、お蓉は驚いたように黙り込んだ。
そして、ふっと目を細める。

「・・・・・・そういうことを、躊躇いなく言えるのが、羨ましい。わたくしには、とても無理だわ」

「何故よ? 誰にでもべたべたくっつく軽い女だとは、思われたくないでしょ。だったら、特別な一人を主張しないと、誤解されちゃうじゃない」

もっともよいっちゃんは、そんなこと気にしてないけどね、と呟き、藍は一人で頬を膨らませた。
お蓉はそんな藍を見つめ、おかしそうに微笑んだ。

「もっともな意見だけど、そういうことを主張するのは、大人にとっては、はしたないことなんですよ」

藍はちらりとお蓉を見た。
横を歩くお蓉は、すっかり幼い少女の相手をしている気になっているようだ。

---ま、いいけどね---

何となく馬鹿らしくなり、藍は話題を変えた。

「お蓉さんは、御珠に・・・・・・えっと、菊助だか三郎太だかとのことを願うつもりなの?」

え、とお蓉が顔を上げ、ぱっと頬を染めた。
俯き、しばらく着物の袂を弄んでいたが、やがておずおずと口を開く。

「お、御珠の話を聞いたときは、そう思いました。でもその話が出たのも、お福さんの胸の内を聞いたときだったから、そんなことを考えたのは、一瞬でしたけど」

「胸の内っていうと、旦那に相手にされないってこと?」

お蓉が頷く。
この話になると、お蓉は怒りが湧いて仕方ないようだ。
唇を引き結び、拳を握りしめている。
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