RUN&GUN
「月輪院様に泣きつくことはできないけど、自分をないがしろにする旦那は痛い目に遭わせたい。旦那の情夫の辰巳にも、同様の報いを、と思ったら、やはり大事な大事な預かり物を何とかするのが一番、と考えるのは、普通ではないですか?」

お蓉の言葉に、藍は、うん、と曖昧に頷いた。

お姫様というのも、なかなか苦労しているようだ。
家のために好きでもない人の元に嫁ぎ、相手にされなくても離縁もできない。
それはそれで、可哀相だ。

「で、あなたもそのお姫様のために、一肌脱ごうと思い立ったわけね」

「そう。お福さんは、確かに自尊心がお強いかたですけど、友達に対しては、そういう嫌な面も見せず、さっぱりとした楽しいかたです。わたくしもお友達として、できることはして差し上げたいし、ここまであのお福さんが胸の内を吐露してくれたことへの感謝というか。それに、わたくしはお福さんのように、辛いだけの祝言は、挙げなくても済みそうですし」

お蓉ははにかみ、三郎太の贈った下駄に、視線を落とした。

「何となく、わたくしだけが本当に好いた人と結ばれるのが、後ろめたいという気持ちもあって、菊助とのことは、お福さんには言えないでいるのですけど」

「あ~~、面倒だわねぇ。そこまで気を遣わないといけないなんて。好いた人とは、堂々とくっついていたいわ」

藍がため息交じりに言うのを、お蓉は相変わらず羨ましそうに見つめた。
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