出会い・白輝伝
一太は逃げた。
とにかく必死に逃げた。

どうやって辿り着いた
のか、気が付けば
虚の中に横たわり
泣き顔で覗き込む二太
の顔をぼんやり見ていた。

一太は丸三日間
足首の傷に因る熱に
うなされ眠り続けた。

熱が引いた後も一週間は
体のあちらこちらが
痛み動けず虚の中で、
ウトウトと過ごしていた。

そして今日やっと外へ
食べ物を探しに
行けたのだった。

この十日間
口にした物は、時折
二太が拾ったペット
ボトルに入れ飲ませて
くれた社裏の涌き水と
以前刈り取り干しと
いた草に、仲間の妖魔が
近くの畑から盗んだ
キャベツだけだった。

「にいちゃ…あし痛い」

二太が心配顔で
覗き込む。大丈夫と
座り直した途端無理な
力が入り焼け付く
ような痛みが、
左足首の傷に走り
一太は思わず
呻き声を上げる。

「痛っ~」

苦痛を耐え流れ
固まった血が、
こびり付く覆いを
一太はためらい
ながら外した。

今日無理して走り
回った為、傷口は開き
腫れ上っていた。

一太に出来る事は、
汲み取った清水で傷口
を洗い、シャツを切り
裂き作った布切れで傷
を覆う事だけだった。

無理が祟ったのか、
その夜一太は痛みと
高熱に襲われ意識を
無くし眠り続けた。

二太が一太に変わり
食べ物を拾いに町中へ
出掛けようと試みたが、
一太の足跡を辿った
黒い犬が、付近を毎日
うろつき回る為、結界
より外へは出られず、
やがて空腹の為に動け
なくなってしまった。
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