出会い・白輝伝
熱にうなされた
一太が時折
「かあ‥ちゃん」
と呟く。

二太の脳裏に優し
かった母の姿が浮かぶ。

涙を堪えようと我慢する
が、絶望と悲しみが、
小さな胸を締め付ける。

「かあちゃ か‥あちゃ‥」

二太は呟き始めそれは
涙と嗚咽に変わる。

つられて胸元の
小さな妹も、か細い声で
泣き始める。

人の年で言えば三才
まだまだ親の
庇護がいる年頃。

人々が解き放つ負の気
に日増しにその霊力を
失いつつある楓に
出来る事は、結界を張り
子供達を人間や外敵
より隠し声を掛け
励ます事だけだった。

「もう少し頑張れ
ニ太…もう少し」

楓の優しい囁きと
暖かい霊気に
二太は微かにほほ笑み
コックリと頷いた。


あれから三日が経ち
撤去整地工事を請け負う
地元土建会社の従業員
数人が、撤去工事を
スムーズに終わらす為に
下見にやって来ていた。
あれこれ仕事の段取り
を決め、いつしか会話は
仕事から思い出話になっていた。
たばこをうまそうに
吸っている年かさの男が、
辺りを見回し懐かしさに、
ほほ笑みつぶやいた。

「俺が、ガキの頃はさ。
ここはガキ共の
遊び場でよ。毎日暗く
なるまで遊んだものだ。
この風景もあと
少しで終わりかぁ。
またひとつ見慣れた
風景が消え、
寂しくなるなあ」

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