出会い・白輝伝
楓に寄り掛かって
いた別の男が、測量器具
を車に運んでいる
青年に向かい。

「オイ~現場用カメラに
フィルム残っているかい」

ありまーすと
青年が答える。

「んじゃあ…楓を
バックに俺と松っさんを
撮ってくれ。松っさん
比処さ並んで」

強引に年かさの男の
腕を引っ張り楓の前で、
最後の記念写真を撮った。
撮り終わったフィルム
を巻き取りながら楓を
見上げる青年が、
現場監督に尋ねる。

「これだけの大木切り
捨てるの、もったい
ないですよね。
何処かへ移動は
出来ないんですか?」

監督が残念そうに応える。

「始めは動かす話
だったが、これを根っこ
ごと掘り出すのに、
少なくても二〇〇万
は掛かる。たとえ他所へ
植え換えたとしても
老木だから根付きは
難しい。枯れる確率が
高い物に予算は出せ
ないと役場で判断し
てよ。国さ申請を
出さなかったんだと。
だもんで結局切り倒す
事になったんだな」

「移動してみなきゃ
結果は判らないのに」

青年は残念そうに、
楓の堅い外皮を手で
撫でながら楓の周辺
を回り始めた。

「あれっ」

幹の穴に気付き覗き
込む。虚の中では
一太と二太が、身を
堅くし息を潜めていた。
楓が張っている結界が、
目暗ましの役目を果たし
青年の目には空っぽの
穴にしか見えなかった。

「ちぇっ…リスか
タヌキが居るかと
思ったが、な~にも
いねえや。工事の騒音が
効いたのかな」


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