魔女の報酬
「バカ言わないでよ。それじゃあ、私はいったい何のために、こんな所に引っ張り出されたというの?」

「君は最後の切り札さ、僕が失敗したときのために。それとも……」

 彼はそこで言葉を切り、その人を引きつけずにはいられない水晶のように透明感のある真っ青な瞳に、やわらかな光を浮かべてメディアを見つめた。
「僕が一人でドラゴンを倒した場合、報酬がもらえなくなるんじゃないかと心配しているのかな。でも、それなら心配は無用だよ。もちろん、報酬はきちんと間違いなく払わせてもらうよ」

 メディアは猛然と首を横に振った。

「そんなこと当たり前よ。それよりも、あんたがドラゴンに一飲みにされて、報酬がもらえなくなるんじゃないかと心配なのよ。ただ働きは嫌いなんだから」

「そうか。なら、前払いをしておこうか」

「前払い?」

 メディアは怪訝げに目を見瞠った。メディアの報酬は前払いの効くものではない。少なくとも彼女はそうとしか考えてなかった。

 だが、メディアの困惑など無視してロランツ王子は、ついと彼女を腕の中に引き寄せると、軽く額に口づけを落とした。心底驚いたメディアは顔を真っ赤にしつつ、彼の腕の中から飛びのいた。

 そのメディアに彼は明るいが、人を食ったような笑顔を見せる。

「行ってくるよ」

 まるでどこかに散歩にでも出かけるような気楽な調子で言って、側に用意していた自分の身長よりも長い槍を取り上げると、王子は身軽く岩陰から飛び出した。

 残されたメディアは、顔を真っ赤にして叫んだ。

「とっととドラゴンに食われて来なさい!」

 彼は振り返ると、片手を挙げて答えた。

「そうするよ」
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