魔女の報酬
「いや」
彼はほとんど泣き出しそうに苦しげに顔を歪めた。メディアを押さえていた手を離し、自分の頭を抱え込んだ。掠れぎみの声が胸のうちを吐露する。
「血を流しているのは僕の心だ。あのドラゴン、できれば僕一人でカタをつけたかった。君を危険な目に合わせたくはなかった。でも、かえって僕の無謀な行動のために君に無茶をさせた。だのに、僕は命懸けでドラゴンと戦っている君をただ見ているしかなくて……。それだけじゃない。意識を失った君をどうしたらいいかわからなくて、ただ側に座り込んで名前を呼びつづけた。このまま君が目を覚まさなかったら、そう考えたら子供のように脅えて、助けを呼びに行くことすら出来なかった。こんなに自分が無力で無能だと思い知らされたことはなかった」
メディアは半身を起こした。襲ってきためまいと頭痛を無視して、ぽんとロランツの肩を叩いた。この意気消沈した王子を柄にもなく慰めてやりたくなったのだ。
彼が呼びつづけてくれなかったら、自分が安逸の眠りから戻ってこれたか、どうか怪しいものだったろう。限界以上の魔力を揮い、回復のための癒しの眠りの中に安住し、戻ってこなかった魔法使いは少なくないのだ。側を離れずに彼女に呼びかけ続けたロランツ王子は、それと知らずに適切な処置を取っていたことになる。
「そう捨てたものじゃないわよ。あんたがドラゴンの片目を潰してくれたおかげで、私の仕事はずっとやり易かったんだから」
彼は腕の中から顔を上げた。まっすぐにメディアを見つめる青い瞳に、熱っぽい光が浮かんだ。
「ほんとうに?」
問いかける眼差しはあまりに真摯だった。思わず気圧されてメディアは、慌てて目を逸らし、殊更に乱暴に言った。
「ほんとうよ。でも、そうでなくたってあんなドラゴン、私一人で十分だったけどね」
「そうだね、君ならきっと」
彼は重荷から開放されたかのような清々しい笑みを浮かべた。
「でも、君はいったいあのドラゴンに何をしたんだい? まるで消えてなくなってしまったように見えた」
彼はほとんど泣き出しそうに苦しげに顔を歪めた。メディアを押さえていた手を離し、自分の頭を抱え込んだ。掠れぎみの声が胸のうちを吐露する。
「血を流しているのは僕の心だ。あのドラゴン、できれば僕一人でカタをつけたかった。君を危険な目に合わせたくはなかった。でも、かえって僕の無謀な行動のために君に無茶をさせた。だのに、僕は命懸けでドラゴンと戦っている君をただ見ているしかなくて……。それだけじゃない。意識を失った君をどうしたらいいかわからなくて、ただ側に座り込んで名前を呼びつづけた。このまま君が目を覚まさなかったら、そう考えたら子供のように脅えて、助けを呼びに行くことすら出来なかった。こんなに自分が無力で無能だと思い知らされたことはなかった」
メディアは半身を起こした。襲ってきためまいと頭痛を無視して、ぽんとロランツの肩を叩いた。この意気消沈した王子を柄にもなく慰めてやりたくなったのだ。
彼が呼びつづけてくれなかったら、自分が安逸の眠りから戻ってこれたか、どうか怪しいものだったろう。限界以上の魔力を揮い、回復のための癒しの眠りの中に安住し、戻ってこなかった魔法使いは少なくないのだ。側を離れずに彼女に呼びかけ続けたロランツ王子は、それと知らずに適切な処置を取っていたことになる。
「そう捨てたものじゃないわよ。あんたがドラゴンの片目を潰してくれたおかげで、私の仕事はずっとやり易かったんだから」
彼は腕の中から顔を上げた。まっすぐにメディアを見つめる青い瞳に、熱っぽい光が浮かんだ。
「ほんとうに?」
問いかける眼差しはあまりに真摯だった。思わず気圧されてメディアは、慌てて目を逸らし、殊更に乱暴に言った。
「ほんとうよ。でも、そうでなくたってあんなドラゴン、私一人で十分だったけどね」
「そうだね、君ならきっと」
彼は重荷から開放されたかのような清々しい笑みを浮かべた。
「でも、君はいったいあのドラゴンに何をしたんだい? まるで消えてなくなってしまったように見えた」