芸大生恋物語
オレ休学、そしてストーカーとの攻防

恵子の相談

「ストーカー?」
「そうなの」


現在オレは無事留年し、半年の休学期間のほとんどをコンビニで勤労の汗をかいて過ごしている。

おはようからこんばんはまで。コンビニ業務に休みはないのである。


コンビニバイトというと、勤務態度にはわりとゆるい印象があるかと思う。

ところがどっこい、このコンビニでは弛緩した接客は許されない。

オーナーが鬼なのだ。


聞くところによるとコンビニ経営というものは、稼ぎは少ない、本部からの指導という名のイビリはエゲツない、バイトの口性なき不満はとどまることなしと、まさに地獄であるらしい。

オーナーはそんな地獄に一筋の蜘蛛の糸を垂らさんとバイトの教育に力を入れているのだ。

だからオーナーは鬼のように厳格だ。

しかしながら言っていることはいつも正論で、さらにオレたちバイトよりもよく働くというまさにオーナー業の鏡のような人であるからオレたちバイトからの評価は総じて高い。

鞭と飴の使い分けも巧みで、客入りの少ない時間帯には、業務に支障が出ない程度の私語は黙認してくれている。


そしてそんな貴重な私語が認められている時間帯に、恵子ちゃんから相談を受けているわけである。


「ほら、よく来る20代前半くらいのサラリーマンっぽい人いるじゃない。絶対にミルクティー買っていく」
「ああ、あの人」


常連さん、しかも購入する物がだいたい決まっている人はよっぽど個性がない場合を除き店員に記憶されている。


「あの人が?」
「うん、会計の時ぜったい私のとこ並ぶし、おつり渡すときも手をつかんでくるし、いやだなーって思ってたんだけど…」


それだけならただの気味の悪い客ですむのだが、どうやら最近はそれ以上の迷惑行為におよんでいるらしい。


「今日アガった後ヒマ?詳しい話聞かせてよ、心配だし。オレも一緒に対策考えるから」
「うん、いいよ!ありがとう!」

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