芸大生恋物語
「どう?一緒に3回生になれそうなん?」


改めて大西洋に住まう魚たちの平和を願っていたオレに単位取得状況の如何を問うてきたのは同期の桜、多田みのりである。

同じ高校出身というだけで大した接点はなかったのだが、見知らぬ土地にのこのこ出てきた田舎者の不安感をお互いに補い合う過程でなんとなしに仲良くなった間柄で、あまり授業に出席しないオレを心配してなにくれとなく世話を焼いてくれるありがたい友である。

今日も今期ほとんど出席しなかった授業の教授に呼び出され、一人で教授がいる研究室に出向く恐怖を減じてもらおうと付いてきてもらったのだ。

まあ恐怖を感じる間もなく入室早々留年を告げられたわけだが。


「いや。なんか無理くさい」


というより無理である。


「やっぱり。なんか出てくるの早かったし。もうちょっと食い下がったらなんとかなったんちゃうん?」
「おまえオレの今期の出席日数知ってる?」
「いやそこまで把握してるわけないやん」
「2日」
「アホやろ?」
「大西洋が平和ならそれでいいさ」
「なにそれきもい」

悟りを開いた仏陀が如き達観した表情で言い切ると、打てば響くように人格否定の言葉を返してくる彼女は無事に進級できたらしい。

サメのギャングに震えるお魚さんたちがかわいそうだとは思わないのだろうか。

たしかにデフォルメされていない本物のお魚さんはきもいと思うが、得てして動物というものは本物はきもいのではないだろうか。

特に以前タイで乗ったゾウの目はちょっと引くくらい気持ち悪かった。

というかオレは大抵の動物が嫌いである。理路整然とされた思考回路を持っていない動物の目は、不気味なものにしか感じられない。


「んでどうすんの?もっかい2回生?」
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