芸大生恋物語
みのりの言葉に迫り来るゾウさんの目の幻惑から解き放たれたオレは返答する。


「んー。まだ考えてないかな」
「しっかりしてよ、あんたもう20なんやから」


答えを濁したのはまだ本当に決めていないからだ。
オレというか親が。

学費を払っていただいている身としては親に足を向けて眠れないほど感謝しているし、仕送りが振り込まれるたびに感謝のメールを送っている。

そんな頭の上がらないご両親様に、もう一年分余計に学費を払ってくれとは言い辛い。

よしんば言ったとして払ってくれるかは未知数なのだ。

二十歳を迎え成人となっても親の援助がなくなれば簡単に立ち行かなくなる我が身の儚さに、十五で成人を迎えていた侍達に全力で土下座をしたくなる思いだ。


「とりあえずはよ親に連絡したら?どうするもこうするもそこからやろ」


もっともな言である。

しかしながらまだ心の準備ができていない。

できることなら一生連絡したくないレベルの案件なのだから。


「まずはメシを食って心身ともに充実させてからにしよう。何を隠そうオレはまだ朝食を食っていないので腹がペコペコだ」
「ほな食堂いこか」


腹が減っては戦はできないのである。
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