隠れ鬼ごっこ
その間にも鬼はもう絵理の目の前まで来ていた。

「い…いやっ…!助けて…!」

そんな絵里に鬼はニヤリッと笑った後…


――ズシャァッ!!

「!」

長い爪を彼女の胸に突き刺した後、横にスライドさせた。

ドシャッと胸を裂かれた彼女は倒れた。

その傷は深く、骨が見え、さっきまで動いてたであろう臓器…きっと心臓までをも切り裂いていた。

一瞬で彼女はただの肉塊に変わった。

――その目には涙が浮かんでいた。


「あ…あぁ…!」


麻里は友人の死を目の当たりにし、涙を流しながら口を押さえていた。

「ッ…!」

俺達ですら、酷い光景だった。

辺りには血の匂いが充満している。

次の瞬間、鬼が歌を歌い始めた。

――あの、歌を。

「捕まえた…♪
捕まえた…♪
3人目を捕まえた…♪
捕まった3人目は…♪
一緒に逃げていた友人に見捨てられ…♪
逃げられない恐怖とその絶望を最期に…♪
鬼に胸を開けられて…♪
その上、肉を裂かれて…♪
骨や裂かれた心臓を飛び出させて…♪
苦痛の中で、泣きながらただの肉塊となりました…♪
さぁ、次は誰かな…?♪」
さっきのアナウンスから聞こえた歌。


麻里がさっきパニックになった理由がようやく分かった。

この歌は…誰かの死を歌うもの。

1番始めは、麻里達の友達。次は昴。そして、今が絵里という子。

鬼に捕まえられ、殺された人達の最期の歌なのだ。

鬼は暫く、その歌を歌っていた。

絵里を殺した時についた血を、身にまとわせたまま。

「うっ……!」

雅明が口を手で押さえ、吐かないようにしていた。

当たり前だ。

こんな惨劇を見せられ、こんな歌を歌われているのだ。

俺ですら吐き気が酷い。

こんな物を目の当たりにして、吐きそうにならない方が可笑しいのだ。


――そう思っていた。

「アハハッ!」

なのに、その場に笑い声が響いた。

もちろん、鬼のではない。
歌が響く中、笑っているのは美咲という子。

「アハハッ!ざまーみろ!アタシ以外、皆死ねば良いのよ!アハハッ!」

狂ったように笑い続ける美咲。

何かが壊れている。

あのピエロの思惑通り。

「この歌を歌ってる時は、当分鬼は追いかけて来ないのよ。今の内に…アンタ達を餌にさっさと逃げ出させて貰うわ」


動けない俺達を他所に彼女はそう行って歩き出した。

――その時だった。


―ガシッ

「!?」

その足を誰かが掴んだ。掴んだのは……

「――拓海!」

拓海だった。立つこともままならないだろう、拓海が必死に彼女の足にしがみついていた。

「何!?離しなさいよ!」


「ふざけんなよっ…!テメェは最期まで一緒に居た奴を見殺しにしたんだぞ!?その上、またテメェのダチと俺のダチを餌にするだと!?やらせねぇ!」


「このっ…!死に損ないのくせに!」

空いている方の左足で傷まみれの拓海を蹴る。

しかし、どんなに蹴られても拓海は足を離そうとしなかった。

「拓海!やめてよ!」

雅明が半泣きになりながら叫んだ。

だって――

「テメェは、俺と一緒に死んでもらう。テメェがしてきたことの報いを受けるんだな!」

「!」

そう。拓海は自分とその子を犠牲にしようとしているのだから。

「馬鹿なこと言うな拓海!お前は昴の想いを無駄にすんのか!?何のために昴は鬼と戦ったんだよ!?」

「昴…。そうだ。俺がもっとしっかりしてれば…あんな所でコケなければ、昴は死なずに済んだんだ…!」

美咲の抵抗を受けながらも、拓海は静かにそう言った。

「始めは復讐しようと思った。でも、今は違う。今、こいつを掴んでるのは…こいつが間違ってるってのと…俺も皆を守りたいから」
「拓海…」

寂しそうにそう言う拓海になんて言って良いか分からなかった。

「俺、馬鹿だからさ。だから、自分の気持ちも満足にコントロールできないんだよ。だから、雅明にも文太にも悪いことした。だけど、皆を助けたい気持ちに嘘はないんだ。悲しいのもよく分かってるけど。でも、こいつを許せないのも事実なんだよ。だから、逃げろ。俺達を置いて」

優しく…でも、悲しげに笑う拓海。

分かってる。分かってるさ。こいつが優しいことくらい。

だけど……


「ふざけんな!誰が、アンタと一緒に死ぬかよ!離せ!」

「ぐっ…!」

顔を蹴られようが、腹を蹴られようが拓海は離すのを止めようとしない。

「離せ――」

その時、あの歌がピタッと止まった。
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