隠れ鬼ごっこ
「い……いやぁぁ……!」


両腕を折られて、立ち上がることもできない美咲。


しかし、鬼はそんなことなど知らないと言わんばかりに、今度は右足に手をかけた。

「や……やめて……!もう、痛いのぉぉ……!」

涙を流しながら鬼に訴える美咲だが、鬼は無言のまま、右足も折り砕いた。


--ボキッ

「きゃあぁあああぁぁぁ!」

その後も、あちこちを折る狂宴が続いた。

今までの殺し方とは全く違う…

腕を捻り取られた昴でさえ、その後はすぐに殺された。

しかし、美咲はいまだに鮮明な意識はある。

拷問のような殺し方に誰もが言葉を失う。

先程まで鮮明に聞こえていた美咲の声も段々と小さくなってきた。


痛みの感覚が薄れ、最早死への恐怖だけが美咲を支配する。

「も…やめて…!」

涙ながらにまだ生きたいと訴える。

身体中の骨が折られ、もし仮に生き残れたとしても体になんらかの障害が残るのにも関わらず美咲はまだ生きたいと強く思っていた。

「……」


鬼はやっと折るのをやめた。

皆が、次はなんなのか…と思う中、鬼はスッと手を上げ…


--ズブリ

「きゃあぁああぁぁ!」

美咲の腹に手を突き刺した。

ブシュッと鮮血が舞った。

しかし、これで終わりではない。

次の瞬間、鬼は美咲の体内から何かを掴みズルズルと…しかし、丁寧に引きずり出した。


「うっ…!」


その場にいた全員が吐き気に襲われた。

何故なら…鬼が引きずり出した物は今まで美咲の体内にあった…腸だったからだ。

「いっ…いやぁぁぁぁああぁ!」

自分の腹から腸が引きずり出され、今まで以上に大きな声で叫ぶ。


「いやっ、いやぁぁぁぁああぁ…!も、戻して…!お願いぃ…!元に戻してぇぇぇ!」

そんな美咲をよそ目に鬼は更にズルズルと腸を引きずり出す。

その時、鬼が小さな声で…恐ろしいことを呟いた。

「…臓器ハ、丁寧に扱ゥト生キタママ引キズリ出セル。さァ、きミはどレくラぃ耐えラレルかナ(臓器は丁寧に扱うと生きたまま引きずり出せる。さぁ、君はどれくらい耐えられるかな)…?♪」

そう言って更にニヤリと笑いながら腸を引きずり出し始めた。


「いやぁぁあぁああ!!!やめてぇ…!」


しかし、鬼は尚も引っ張る。


「うっ…!ゲホッ…!」


遂に耐えきれなくなった雅明が口を押さえながら吐いた。


「雅明!」


怜が背中を擦ってやる。


まだえずき、涙を浮かべながら雅明は口を開いた。


「こん…なの…ゲホッ…見て…られな…ゲホッ ゲホッ!」


怜は美咲の叫び声が響く中、その光景をまた見た。


生きた人間から内臓を出されるという非現実的な光景が当たり前の様にそこにあった。



麻里に至っては放心状態、拓海もその光景から目が離せなくなっている状態だった。


雅明以外の人はかろうじて吐いてはいないものの、普通なら気がおかしくなっても良いような光景だ。

「もうやめてぇぇぇ!!!痛いぃぃいい…!」


身動きをとれば、腸が飛び出てしまうのではないかと思い、下手に身動きをとれない美咲が叫んだ。


耳を塞ぎたくなるような悲痛な叫び声。


その時、ピタリと鬼の動きが止まった。そして、鬼は静かにこう囁いた。

「……モぅ、アキた。…死ね」


「えっ--」


言うか否か、もの凄いスピードで美咲の目の前に行き--

-ズシャア


「!」

絵里の時と同様、その身を切り裂いた。


ズシャリとただの肉片になったそれは、床に倒れこんだ。


辺り一面に血が飛び散っていた。


昴を騙し、友人までを犠牲にした美咲が許せなかった……が、これはあまりにも酷い光景だった。


「……」


鬼は暫くそれを見つめた後……


「アはハハハはハ!」


笑い出した。


本当は、鬼の笑い声を聞きたくなどないので耳を塞ぎ、美咲だったその肉片を見ないために目を瞑りたかったが、金縛りにあったように動けない。


誰もが恐怖で、動けない中、鬼は笑い続けた。


そして、あの歌を歌い始めた。


捕まえた…♪
捕まえた…♪
4人目を捕まえた…♪
捕まった4人目は…♪
友人や他の参加者を裏切り…♪
自分だけ生き残ろうとしたが…♪
最期には鬼に捕まり…♪
骨を折られ腸を引きずり出される恐怖を味わいながら…♪
3人目と同じく切り裂かれて死んじゃった…♪
出された腸はウィンナー♪
裂かれた肉体はハムのよう…♪
まるで、食べ物みたいな無惨な姿で…♪
絶望を、味わいながら死んじゃった…♪
死体は残さない…♪
僕とピエロで食べちゃうよ…♪
さぁ、次は誰かな…?♪


いつもより少しだけ長い歌。


あまりの仕打ちに言葉も出ない。


何せきっと美咲の体は…歌の通り本当に食われてしまうのだから。


ユラリと動けない怜たちの方に向き直る鬼。

どうやら残ったままになる美咲の体は後で喰うことにしたらしい。

今は新たな獲物…そこにいる参加者を捕まえようとしているのだ。


ヒタ、ヒタと近づいてくる鬼に逃げる気力もなくなってしまった怜たち。


ダメか…。


諦めて怜が目を瞑った時だった。


ガシッ


「!?」


何かが捕まる音がした。


一体どうなっているのかと、目を開けた怜が見たものは…


「…拓海!?」


必死の鬼の足に捕まる傷だらけの拓海だった。


鬼の足を掴みながら拓海は叫んだ。


「早く逃げろ!!俺が押さえている間に!」

蹴られても尚、しがみつく拓海。


その必死さが痛いほど伝わった。
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