隠れ鬼ごっこ
「……!!!」


声にならない悲鳴が喉の奥で渦巻いていた。


その後も何度も扉の外からは嫌な音が聞こえてきた。


逃げろと言われたが足に力は入らず「開けろよ…頼むから……」と情けなくぶつぶつと呟くだけであった。


足元の扉の隙間からゆっくりと赤い液体が流れてきた。


それが雅明のものだというのは嫌でも理解できた。


倒れては起き、倒れては起きを繰り返していた雅明だが、ついに起き上がる音がしなくなった。


束の間の沈黙。


そしてすぐにものすごい勢いで扉が叩きつけられた。その衝撃で情けないが後ろに倒れてしまった。


あぁ……。


このまま開けられて俺も捕まるのか…。


後ろから真里の叫ぶ声が聞こえているが、遥か遠くからの声に聞こえていた。


諦め半分、これ以上傷付かないんだという安心感半分。


鬼が来るのを項垂れて待っていた。


しかし。


「行かせない…!!」


「!」


か細い雅明の声が耳に聞こえてきた。


「雅明…!」


雅明がまだ抵抗していた。


なんでそこまでして…!


俺は再び扉を見据えた。


「……離セ」


冷たく寒気のする鬼の声が聞こえて思わずビクッと体が跳ねた。


いつもの雅明なら怯えてていいはずだ。


なのに何故まだ抵抗しているのか。


あの恐ろしい鬼を相手にして。


「絶対に…行かせないっ…!」


最早執念だけで雅明は鬼の足にしがみついていた。


「……何故ソこまでスル」


不意に鬼は相変わらず冷たい声で雅明に尋ねた。
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