隠れ鬼ごっこ

「……！」


思わず顔を上げる。


そうだ…なんで自分を犠牲にする？


お前は優しいから…その後に俺がどう思うか…感じるか分かってるだろ？


すぐ前に拓海のことで俺を正気に戻してくれたじゃんか…。


「……逆に…聞くよ…。なんで…君は…あんな奴の…言いなりなの…？」


「……！」


息を飲むような声が微かに聞こえてきた。
俺にも理解出来なかった。何故今をそれ聞くんだ…？


「……僕は…ずっと……虐められてきた…。だから……なんとなく分かるんだ…。君も…俺に似てるって…」


「…ナニ？オ前ト…俺ガ…？」


「そうだよ……」


「…笑ワセルナ。弱イお前ト一緒ニスルナ」


「違わないよ…君の目には……寂しさを感じる…。1人だった時の……齋藤くんたちに虐められてた時の…僕の目にそっくりだ…！」


「！」


さっき雅明は言っていた。"寂しそう"だと。だが…それがどうしたって言うんだ？それとその執念は何と関係あるって言うんだ…？


「…フザケルナ」


「うっ…！」


ﾄﾞｶｯ！という鈍い音と雅明の呻き声が聞こえてきた。


「雅明！」


思わず叫んでしまう。ここにいるとバレたら…犬死にするかもしれないのに。


「コンナニ脆イ癖ニ…。甚ダシイ」


「ゲホッ…違わ…ないさ…。君には…彼しか…一緒に…居てくれなかった…んだろ…？」


「……！！」


再び息を飲むような声が聞こえてきた。


「……君は…僕と…似ている…。僕も…虐められてた時…1人だった時に…怜じゃなくて…齋藤くんの様な……酷い人と一緒に…居たら……どんなに悪いことでも……きっと一緒に…居たくて…1人になりたくなくて…やっていただろうから……」


苦しそうに息を荒げながらも何処か説得する様に…雅明は喋り続けた。


「…だから…こんな事…やめようよ……。元々の君は……そんなことを…望んでいたの…？この…ゲームは……子どもの遊び…でしょ…。本当は…こんな風じゃなくて…ただ…普通に…遊びたかったんじゃないの…？」


「……！！！」


姿を見ていないから鬼の表情や動きは読めない。それでも鬼の凍るような殺気が少し変わったように感じた。


「…今なら…きっと戻れるよ……。だから…こんな事…やめようよ……。やめて…僕と友達に…なろうよ……」


「ナニ……？トモダチ……？」


少し和らいだ殺気に満ちた扉の先から戸惑いが含まれた問いが聞こえてきた。


「そう…友達。僕に怜が…してくれたように
…僕も君と…友達に…なりたいな…」


「そんな…雅明…」


不意に出た自分の名前にそんなことはないと感じながら…それが言葉となって現れることはなかった。


「トモダチ……トモダチ……？」


明らかに困惑が含まれた声に雅明の魂胆がようやく見えた。


説得してるのか…。鬼と対峙して…鬼の中にある何かを感じ取って…即座にそれをやってのけるのか…。


「…やっぱすげぇよ。お前」


もしかしたら…これで鬼は戦意喪失するかもしれない。そうすれば…死んでしまった人達は無理でも今、生き残ってるメンバーは全員生き残れるかもしれない。


そしたら……。


そんな希望が辺りを包んで行った。


揺らぐ鬼を見た雅明は静かに手を伸ばした。


それを見た鬼がその手を見つめて微かに手を伸ばした瞬間であった。


ーー何してるの〜？


「！！！」


鬼の頭の中にピエロの声が響き渡った。