隠れ鬼ごっこ
ーーまさか僕を裏切ったりしないよね〜?君は僕のお気に入りのお人形ちゃんなんだから。


「………」


鬼は微動だにせずにその言葉を自身の中に溶け込ませている。


ーーまさか…忘れちゃったの〜?僕が…君の"願い"を叶えてあげたでしょ〜?


「…分カッテル。デモ……」


ーー…まっ、君の意思は関係ないよ。お人形ちゃん♪…さっさとやってくれる?


「ウッ……」


一度取り戻しかけた光はあっさりとピエロに取り上げられて再び意識が朦朧とする。それが証拠に殺気が冷たくなって辺りに満ち始めた。


「!?」


扉越しからも感じ取れるそれは…先ほどよりも冷たく感じ取ることができ…少し離れた所に居る真里ですら震え始めた。


ーー危ない危ない♪ここのところ…"メンテナンス"してなかったからね。余計なことはぜーんぶデリートだ〜♪


「フフフフ〜♪」と笑ったのを最後に鬼の頭からピエロの声は聞こえなくなった。


元のような冷たい瞳で雅明を睨み付ける鬼。


「…やっぱり……そういうこと…」


半ば諦めるように呟く雅明の声を遠くで聞いているように感じた。状況は何も変わらないまま…それでも動けずに震える自分を情けないとも感じなくなった。


「…怜。早く逃げて。僕…多分そんなに持たないから…」


そう力なく…でも諭すように言う雅明の言葉に俺は動けずに居た。


それでも現実を見たくない故に…逃げ出したいと感じている自分が居た。


情けないとか怒りとか…そんなものを持つ余裕すら無くなっていた。ただそこに居るだけの…置物化としていた。


真里だけでも…と思うが思考が停止してしまっている。無気力となった今は全て時が止まったように…どうでも良かった。


ただ呆然とその時を待つことしか出来なくなった時だった。


ーーガシッ!


「……?」


肩を思い切り掴まれた様な感覚があった。…ハハッ。幻覚もここまでリアルになるんだな…なんて何処か遠くでぼんやりと思っていた。
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