隠れ鬼ごっこ
「……おい!何してるんだよ!」


……?なんだ…?やけにリアルに聞こえてくるもんだな。


真里はこんな声が低くないし。


ぼんやりと考えていると両肩を掴まれて後ろを振り向かせられた。


「何ぼさっとしてんだ!逃げんぞ!」


「……え。…文…太…?」


上手くまとまらない思考で目の前にいる人の名前を呼んだ。


そこには文太が居た。なんで…?


「真里!」


その後ろで違う女性の声が響いた。ぼんやりと後ろを振り返ると真里の側に女の子がかがみ込んで揺さぶっている。


「奈緒…!」


真里は泣いてたであろうか細い声で女の子の名前を呼んでいた。


「行くぞ!」


腑抜ける俺を無理矢理立たせて文太は走り出そうとしていた。


「待て…この先に雅明が……」


「雅明…?」


文太は扉の先を僅かな間に見つめた。しかし何かを決したように一言声をかけた。


「…ごめんな。連絡ありがとう」


「……うん…行って……」


弱々しく雅明は心なしか笑っている気がした。


「…行くぞ!」


動く気すらない俺を文太は無理矢理引っ張って走り出した。


なんでだよ…なんで雅明置いていくんだよ……。


そう思うが声にすらならない。


そのまま訳もわからないままに俺はただ身を委ねることしかできなかった。悲しいことに涙すら出てこなかった。


ーーそれからどれくらい経ったのだろうか。不意に引っ張られる力がなくなり力なく崩れるように座り込んだ。
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