隠れ鬼ごっこ
◆変遷
ーー怜side

あれから俺たちは再び校舎内を歩いていた。
…まだ立ち直れていた訳ではなかったがいつまでも進まないわけにはいかない。


「後…2時間位ってとこか?」


文太が懐中時計を見ながら呟いた。奈緒も「そうみたいだね」と時計を見ながら答えていた。



「……」


後2時間……。もうそんなに経ってたのか。最初以外…見てなかったな。あれから…俺はどうしても懐中時計を見る気にはならなかった。見れば…水晶が割れているのを見ないといけないから。それでも…確認しないといけない。文太も見るのは嫌なのだろうけど俺に気を使って見てくれているのだろう。


…それでいいのか?ずっと周りに助けられるだけで…。……昴も拓海を助けて…拓海は俺らを守って……雅明も…俺を助けて……。じゃあ俺は?俺は…助けようとして…失敗してるだけじゃないか。挙句は文太に守られてる。雅明は僕を助けてくれたって言ってたけど…今…大事な時に俺は……無力だよ。


こんな俺を慕ってくれて優しく笑う友人の顔が頭に浮かんだ時だった。


「………?」


強い違和感を感じた。なんだ…?余計なことを考えるとその違和感の正体が掻き消されそうでぼんやりと頭に浮かべる。


昴、拓海、雅明……。


みんな捕まってやられてしまったはずなのになんだこの暗い気持ちじゃない…明るい光が差し込みそうな感じは。


何か…引っかかっているこの感じは。


なんだ……?


それに…この違和感の糸は1つだけじゃない気がする…。…焦るなまずは1つずつだ。最初に感じたこと違和感から糸を紡いでいかないと全部絡まるぞ。


焦る気持ちを抑えて最初に感じた違和感から思い返す。


…そうだ。雅明の事を思い浮かべた時だ。


3人の友人の内…最後がということもあるんだろうが雅明の姿だけが強く浮かんでくる。


雅明…お前は俺に何を伝えようとしてる?


…考えろ。この違和感を。苦しくても思い返せ。雅明が捕まった時を……。違和感を感じ始めた状況を。違和感の糸が頭に浮かんだのは文太が懐中時計を見てて自分の不甲斐なさを思っていた時だ。そして捕まった3人を思い出して……。捕まった……。捕まる…?


「……!!!!」


糸がハッキリと違和感を繋げた。それを確かめる術を俺は持っている。


確かめる為にポケットを乱暴に探っていた時だった。


「そういえば…ここって古い学校だけど何か関係あるのかな?」


「写真とかあるもんね」


女の子2人が廊下に壁の写真を見ながら話していた。手には探していた物があったがその写真に釘付けになる。


ーー分かるんだ。あの鬼も僕と同じだってーー


雅明のそんな言葉が頭に浮かんできてもう一つの違和感の糸も繋がった。


「わっ!」


いきなり写真の方へ駆け出して凝視する俺に驚く2人を無視し、探していた物…懐中時計を見る。


…やっぱり!!


それにもし俺の仮説が正しければ……この状況を打開できるかもしれない!


懐中時計を握りしめて俺は再び写真に写る生徒たちを見て強く確信した。


糸が明るい線に変わった瞬間であった。
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