隠れ鬼ごっこ
「どういう事だよ?終わらせられるかもって」


文太の問いに心臓が高鳴るのを抑えながら俺は説明する。


「まず1つ。ここに居る奴ら以外は皆…捕まっちまっただろ?」


「あぁ…」


「そん時必ずあることが起こってた…。何か分かるか?」


「えーっと……」


奈緒が首を傾げながら考える。…あまり言いたくない事で声が震えているのに気付いた真里が小さな声で答えた。


「……歌が流れてました。多分捕まって…命が消えた後すぐに……」


「!」


奈緒と文太がハッとしたようにこちらを見た。


「…そうだ。鬼が捕まえた奴の最後を歌ってた」


「そういえば…。でもそれと何か関係あるの?」


「もしもだ。捕まってれば必ず歌ってた筈だ。だが…おかしいんだ。…雅明が捕まってから時間が経ってるのに歌が流れていないんだ」


「あっ…!」


文太が期待したようにこちらを見ている。そう。雅明が捕まってから俺の意識がハッキリしてない時間も含めるとそれなりに時間が経っている。…まぁ、もしあの状態で歌を聞いてしまったら俺は間違いなく狂ってただろうけど。


「それなら雅明さんは無事という事でしょうか?」


「今はまだな。歌を歌われたら…絶望的と考えていいと思う。少なくとも…死ぬと同時に歌を歌ってたのは……実際目の当たりにして確認済みだ」


思わず吐き気がして胸元を強く握りしめる。説明をするのは口にする事で思っていたよりも鮮明にその時がフラッシュバックする。


心配そうにこちらを見ている真里に手で「大丈夫」と制しながら口を開く。


「ただ仮に生きていたとしても…殺されない保証があるわけじゃない」


「スピーカーの故障ってこともあり得るもんね」


「いや。それはないな」


「なんで言い切れるの?」


まるで言い返すようにそう反論した俺に少しムッとしながらスピーカーの故障を推した奈緒は返した。


「言い方が悪かった。故障をしていない保証はもちろんない。だが…歌わないことがあっても…その歌を俺らに聞かせない訳ないんだ。あいつらは俺らのそう言った恐怖とか負の感情を見るのが面白いんだ。実際に今までは大音量で流してた」


「確かに…」


「…あのピエロ…。私達が苦しんでいる姿を見て…楽しそうでした…。それならあの歌はかなり効果的です…。私は辛くて…叫ばずにはいられませんでした…」


思い出したのであろう。思わず震える体を押さえていた真里を奈緒は心配そうに見ていた。


「なるほど…。雅明がまだ生きているかもしれないのは分かった。助けられるかもしれないのも。でもどうやってあの鬼から助けるんだよ?それに…それは分かったが終わらせられるに繋がらないんだが?」


文太もどうにかしたいのだろう。仕切りに終わらせられる部分の説明を急かしてくる。俺は深呼吸をし呼吸を整える。


「そこについては…あくまで俺なりの仮説だ。雅明の生存よりも確証は薄い」


「分かってるよ。それでもいいから聞かせてくれ」


「あぁ。まずこの舞台。始まる前にお前言ったよな?ここ(俺らがいた場所)に似ている場所らしいって。でも明らかに違う。俺らも確かに学校でやったけど…こんな古い校舎じゃない。ずっと引っかかっていた。そこで気付いたんだ。確かにここ(現世)に近い場所があるのかもしれないけど、それは俺らの近くの場所ではない。別の誰かの場所なんじゃないかって」


「別の誰か?」


「そうだ。かなり古い学校だ。少なくとも30年以上は前だ」


木造の校舎なんて今は殆どない。そしてその場所が舞台になっているというのは必ず意味がある筈だ。口の中が乾く感覚がある中、俺は頭の中の仮説を整理しながら言葉へ変えていく。


「そして鬼。鬼の姿は俺らと変わらない見た目をしているだろう?」


「そうだな…。殆ど逃げんのに必死で見てないけど俺らと同じくらいの奴だったな」


「そこの写真を見て俺は確信した。…ここは鬼に関連する場所だって」


先程見つけた写真を指差す。そこには鬼が写っている訳ではないが鬼と共通点が1つだけあった。


「あっ!この人達が着てる制服…鬼と同じ!」


じっと写真を見ていた奈緒がハッと気付いてこちらを見ながら正解を求めた。俺は頷いてそれを肯定する。


「鬼と関係あるのは間違えなさそうですね。でも…分かったところでどう打開するのでしょうか?」


おずおずと尋ねる真里の言葉に再び頭を整理する。慌てて違うことを話さないように深呼吸をして落ち着く。


3人は黙ってこちらを見て俺の言葉を待っている。


数回深呼吸をし、俺は順に3人を見ながら口を開いた。


「…雅明がヒントをくれたんだ」


ここからが俺の仮説の本題だ。

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